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警察は五分と待たずにやってきた。
玄関のドアを開けると刑事と制服警官が立っていた。
「奥さんが誘拐されたとの通報でまいりましたが」
刑事はそう言うと、三和土で靴を脱いで勝手に上がり込んできた。
警官も刑事のあとを追うように慌てて上がり込んできた。
二階に上がり、寝室の引戸を開けて刑事を招き入れた。自分が最後に妻の姿を見たところだ。
刑事は片眉を上げて、部屋の中をうかがっている。
布団の上の靴跡に気づいたのか、その上に手をかざして神妙な面持ちでいる。
「ご主人。ここのものを動かしたり、触ったりはしていないでしょうな」
「僕は、妻と一緒にここで寝ていたんですよ。動かしはしないが、触ってしまうのは仕方がないでしょう」
刑事は舌打ちをした。
「それがいちばん困るんですよね。不用意にあちらこちら触られると、犯人の手掛かりが吹っ飛んでしまう」
刑事は頭を掻きながら、すべての非がこちらにあるかのような困り顔を向けている。
「手掛かりならあるじゃないですか。誰かが土足で部屋に入り込み、妻を拐って行ったんですよ」
「ほう。ご主人はその姿を目撃されたのですかな」
「いえ。眠っていました」
刑事が自分に顔を向けた。目を細めていた。
「ご主人。あなたは、ご自身が寝ていた真横で奥さんが拐われたというのに、それには気が付かなかったと、おっしゃるのですな」
「そうです。目が覚めたら、いなかった」
「……おそらく、大変な騒ぎだったでしょうに。まったく気が付かなかったのですか」
「そうです」
「そんなことがありえますかね」
と、刑事は言った。
自分は心外な気持ちになった。
「実際そうだったんだから、しかたがないだろう」
「ご主人。ちょっと、失礼しますよ」
刑事は部屋の中を歩きまわり、そこらに置かれている物を手に取ったり、眺めたりしだした。
ひと通り終わると制服警官に近づき、耳元で何かを言った。
警官は頷くと、そそくさと部屋から退出して行った。
刑事が「ご主人。御手洗いをお借りしてもよろしいですかな」と言った。
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