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きた──!
薙は、先程の一慶の言葉を思い起こして、答えた。
「今日は未だ、会ってないよ。一慶に、何か御用でしたか?」
「えぇ。これよ!」
満面の笑みを浮かべるや──沙耶は、タブレットの画面を操作して、何枚もの写真を見せた。これ以上無い程に着飾った若い娘たちが、作り笑顔で此方を見ている。
これは、もしや──
「お見合い写真!?」
「そうよ!いっちゃんに、どうかしらと思って。あちこちから、選りすぐりの美女を集めてきたの。」
「あちこちから…」
「えぇ、凄いでしょう!?」
沙耶は、『どうだ』と云わんばかりに顎を聳やかした。
確かに、凄い。
沙耶は『お見合い斡旋』のエキスパートなのだろうか?今時、そんな世話焼きが存在しているとは、驚きである。
『お見合い写真』と呼ばれるものすら、実際に目にしたのは初めてであった。
「だって、ね。聞いてよ、薙ちゃん。あの子ったら、例の件以来、全然彼女作らないんだもの。老婆心だと解ってはいるけれど、私もう心配で心配で──」
早口に唱える沙耶のセリフに、薙は、ふと引っ掛かりを覚える。
「沙耶さん…『例の件』て?」
「あら??薙ちゃん、知らなかった?」
薙は、ふるふると首を横に振った。
一慶には、まだまだ謎が多過ぎて、どこまで理解出来ているかは解らない。
多くの苦悩を抱えているのだと、薄々気付いてはいたけれど…彼は決して、その全てを明かそうとはしなかった。
その壮絶な生い立ちを聞いて尚、埋まらぬ『距離感』は変わらない。
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