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訝る薙を見て、沙耶は急に表情を強張らせた。
「沙耶さん、例の件て…なに?」
「え…?あ、あら。嫌だわ、私ったら。大した事じゃないから気にしないで?私はね。いっちゃんと祐ちゃんには、良い娘さんとくっ付いて貰いたいだけなのよ。」
「どうして?」
「だって!あの二人が先に片付いてくれたら、うちの遥が、薙ちゃんを『お嫁さん』にする事が出来るじゃないの!」
「え?」
「聞いたわよ、薙ちゃん??四天衆の中から、お婿さん選びするんですってね?私はもう、大歓迎よ!うちの息子が選ばれたら、こんなに嬉しい事は無いわ !」
芝居がかった口調で言い放つと、沙耶は口元に右手の甲を当て高笑した。
…と、その時である。
「こら、オカン!朝っぱらからワケわからんこと言うな!!」
いつの間にやって来たのか、背後に、鍵島遥の鬼の形相があった。沙耶は涼しく双眸を眇めて言う。
「あら、遥じゃない。おはよ。」
「おはよって…もうっ!!頼むから、いらん事すな!何や俺が負けるとでも云わんばかりやないかい!?」
思い切り叱り飛ばすと、遥は、沙耶を羽交い締めにする様にして、引き摺って行った。
「薙、ごめんね!後でちゃんと謝りに行くから!!」
そう言いながら遠ざかる母子を、薙は呆気にとられて見送った。
一慶が、沙耶を避けていた理由が解る。
「沙耶さん…恐るべし。」
薙の呟きを、裏木戸の《式神》だけが聞いていた。
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