821人が本棚に入れています
本棚に追加
重く垂れ込める空気。
静寂を穿つ様に、祐介が口火を切った。
「…薙は『女性』だよ。本人にその自覚がないだけで、女性としての機能は充分に備わっている。肉体的には、いつでも『母親』になれるんだ。なのに、あの無防備さ──。あれは問題だね。とても危うい。」
「仕方がないだろう?アイツは今まで、『男』として生きて来たんだ。無理に自覚を促すより、自然に開花するのを待つ──そういう約束じゃなかったか?」
「あぁ、例の盟約ね。遥にも言ったが、あんなものには何の拘束力も無い。──薙の様な子はね。早く誰かの手の内に入った方が、幸せなんだよ。誰彼となく磁石の様に吸い寄せて…まるで目が離せない。誰かが大切に仕舞っておいてあげないと、彼女自身が悲しい想いをする。」
祐介が何を言いたいのか、一慶にはよく解っていた。
──果たして。予想通りの言葉が、祐介の口から放たれる。
「渡さないよ。」
「──」
「折角こちらを向き始めたんだ。キミにも遥にも、誰であろうと渡すつもりはない。」
いつになく真剣なその眼差しに、一慶は彼の決意を知った。
この男は本気だ。
本気で、彼女を手に入れようとしている。
《金の星》の当主──六星の首座。
数百年に一度現れるという、金の瞳を持つ《神子》を、己が手中に納めようとしているのだ。
そんな祐介の本心を、一慶は諮りかねていた。
遥の様に純粋な恋情だけで、薙に近付いているようにも見えない。
「ユウ。お前が何を考えているか知らないが、選ぶのは薙だ。俺達は選ばれる側だ。」
「だからって、彼女に選ばれるのを黙って待っているつもり?甘いな、カズは。そうして全てを傍観している間に、僕が彼女を貰うよ?…キミは、いつまでも、其処でそうして待ってるといい。」
最初のコメントを投稿しよう!