幕間劇~intermedio(インテルメディオ)

54/54
821人が本棚に入れています
本棚に追加
/640ページ
 高飛車に腕を組んで、祐介は言う。 「事を動かすのは、常に自分自身だ。先を見越して動かないと、また大事な人を失うよ?──亜梨沙の時の様に。」 「…………」 「いつまで、過去を引き摺る気だ?彼女を思うあまり、キミは一歩も動けなくなっている。そろそろ解放されても良い頃だろうに。亜梨沙だって気の毒だ。肝心のキミが、いつまでもその様じゃあ、彼女だって報われない。」 「その話はするな。俺自身の問題だ。亜梨沙と薙は違う。アイツには関係ない。」 「だったら、尚更じゃないか?同じ土俵に上がっておいでよ。過去の出来事を精算したというなら、何の問題も無いだろう?遥は、既に『宣戦布告』して来たよ。キミは、どうする?参戦しないの??」  再び、長く重い沈黙が降りて来る。 息も吐けぬ程の緊張感。 キツく目を眇める一慶に対して、祐介は、どこか余裕が有りそうだ。口元に微かな笑みを張り付かせている。  その均衡を、先に破ったのは一慶の方だった。小さく嘆息すると、気だるく前髪を掻き上げながら言う。 「朝から、お前と言い争うつもりはない。この話は、もう終わりだ。それから、二度と亜梨沙の名を出すな。俺も、そう寛大な(たち)じゃないからな。」  そう言い残すと、彼は、何事も無かった様に踵を返して去って行った。頑として他者を寄せ付けない、逞しいその背を見送りながら、祐介は皮肉に独りごちる。 「よく云う…。キミは充分に寛大だよ。目の前で、気のある女を奪われようとしているのに…随分、余裕があるじゃないか?」
/640ページ

最初のコメントを投稿しよう!