二段目:【スクール・ゲーム】 ─蓬来馨の章─

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 それ以降、薙は防戦一方に廻る事になった。こうなるともう、一慶の独壇場である。反撃の余地など、全く無い。 彼は、強かった。攻めると見せ掛けて、突然、防御に変じる──または、その逆を行う事で、相手のリズムを狂わせる。 凡ミスを誘う、撹乱と誘導。 これこそ、甲本一慶が最も得意とする戦法であった。  辛うじて攻撃を躱わしながら、薙は、無に近い勝機を見極める。必死に応戦する一方で、目まぐるしく反撃のシミュレーションを繰り返した。 (間合いが近い。このままじゃ不利だ)  手足の長さに勝る一慶から『地の利』を得るには、一度、彼の間合いを外れて、攻撃エリア内から出なくてはならない。 薙は、ここ一番の奇襲に打って出た。 振り下ろされた手刀を逆手に捕らえて、そのまま彼の懐に潜り込む。  だが、投げを打とうとした処を、逆に上から押さえ込まれてしまった。 ──次の瞬間。薙は足を払われ、床に俯せにされる。 『しまった!』と思った時は、もう遅かった。 一慶は、彼女を後ろ手に締め上げると、その背中に片膝を乗せて捩じ伏せた。 「残念だったな。」  背中越しに、乾いた声が降って来る。 「今の攻撃で、丁度80%ってところだが…どうだ??俺に勝てそうか?」 『80%』──これで? 速さも威力も、まるで敵わなかった。 フル・パワーの一慶に、勝てる筈がない。 「く───そ!」 薙は、腹立たしげに叫んで床を叩いた。
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