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「…スゲーな、おいおい。お前ら、朝からガチ勝負かよ?」
場内の片隅で、呆れた様な声が飛ぶ。
見れば、烈火と遥が『少し距離を置いて』道場の壁際に立っていた。
薙は、目を丸くして──
「烈火…??」
「おぅ!」
軽く手を挙げると、烈火は、腰に下げた鍵をチャラチャラ鳴らしながら、二人の元に歩み寄った。
真っ赤な髪に、黒いレザージャケット。
相変わらずの出で立ちに、一慶は思わず溜め息を吐く。
それから、敢えて身長差を誇示する様に烈火を見下ろして訊ねた。
「お前、いつから其処に居た?」
「今の立ち合いが始まって、直ぐ?」
「不法侵入かよ。うちの護法は何やってんだ??」
そう言って、隣に並ぶ遥を見遣れば、既に烈火と一悶着あった彼は、あからさまに顔を背けて『ふん』と鼻を鳴らした。
微妙な空気が読めない烈火は、ニタニタと機嫌好く笑って二人を見比べる。
「いや、しかしスゲーな、此方さんは。遥と云い、お前らと云い…何よ、このモチベーション?《金の星》は、いつから体育会系になったんだ?ちょっと引くぞ。」
「勝手に引いてろ。そういうお前こそ、随分早いご到着じゃないか。《火の星》は、いつからそんなに暇になったんだ?」
一慶の揶揄に、烈火が小さく舌打ちをする。
「暇な訳ねーだろ!早く来ちゃ悪りぃのかよ?」
そう悪態を吐くと、烈火は突然、踵を返して薙の元に歩み寄った。驚く彼女の身体を、ヒョイと抱き上げて会心の笑みを浮かべる。
「ちょ──っ、烈火!?」
「よう!久し振りだなぁ、薙!!どれ、少しは重くなったか?」
「何それ?親戚のおじちゃん?!恥ずかしいから、降ろして!」
慌てる薙をスルリと床に降ろすと、烈火は吊り上がった目をキュッ細めて、彼女の肩を抱いた。
「なぁ。朝飯これからだろ?今朝のメニューって、何?」
「烈火──もしかして朝御飯、食べに来たの?」
「当たり!柴崎さんの料理、めちゃくちゃ美味いんだよなぁ~。俺、スゲー愉しみにしてんだけど…呼ばれちゃって良い?」
薙と遥と一慶は、一斉に大きな溜め息を吐いた。
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