820人が本棚に入れています
本棚に追加
/640ページ
Epilogue bridge─エピローグ・ブリッジ─
射し込む朝の陽光…
微かに聞こえる小鳥達の囀ずりに、健介は、ゆっくりと瞼を開けた。
淡く霞んだ視界に飛び込んで来たのは、無機質な白い天井である。
──健介は、軽い既視感に捕われた。
いつか何処かで、同じ景色を見た様な気がする。
白い壁、白い天井に区切られた密室。
一体あれは、何処だったろうか?
ぼやけていた記憶が、徐々に焦点を結んで行く…
「あ…!」
突然、全ての記憶が蘇った。
そうだ…あの日。心悠会の本部で、俺は、大御堂の暴挙に因り負傷したのだ。
──それから、どうなった?
突然現れた、灰色の髪の長身の男…
確か、九鬼棗と名乗っていた。
彼が狙っていたのは、心悠会でも大御堂でもない。
六星一座の金剛首座──甲本薙だった。
…………
…………
「首座さま!?」
大声で叫んで、ガバ!と身を起こす。
その途端、焼ける様な痛みが全身を貫いた。
「…っ、痛てぇ…」
特に強く痛む胸を押さえて、健介は前屈みに踞る。ガーゼを貼られた胸の傷は、割れた照明器具の金属片が突き刺さった痕だ。
「あら、藤倉さん。お目覚めになりました?」
鈴を振った様な声が聞こえて、健介はハッと顔を上げた。
二十代前半と見られる愛らしい女性が、此方の様子を窺うように覗き込んでいる。
「ぅわ!」
相変わらず女性に免疫の無い健介は、大袈裟なリアクションで飛び退いた。
白衣の女性は、クスクス笑いながら言う。
「ごめんなさい、驚かせちゃいましたか?今ちょうど面会の方がいらしたので、起こそうと思っていたんですよ。」
「面会…?」
その言葉で、漸く自分の措かれている状況を把握した。
ここは病院の個室だ。
白い壁に白い天井──
ほんの僅か開かれた窓からは、僅かに寒気を帯びた早春の風がそよいで来る。
ベッドの脇に置かれた花瓶には、見事な白いカサブランカが花弁を拡げ、馥郁と芳香を放っていた。
最初のコメントを投稿しよう!