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「今井孝則、法務部法務課配属を命じる」
(えっ、法務部・・・?なにそれ)僕の第一印象は、こんな感じだった。
そこへ、お役所の役人といった感じの銀縁メガネをかけた髪型七・三の細身で長身の嫌味な顔をした紳士が、僕の前に颯爽と現れ、「法務課長の石田だ。じゃあ、僕についてきたまえ」と言い。偉そうにポケットに手を突っ込んだまま僕を法務部のある三階まで導いてくれた。
「今井君だったな」不意に石田課長が僕に話しかけてきた。
「はい。今井孝則です。よろしくお願いします」
「身長は?」
「えーと、176センチです」
「学生時代、何か部活はやっていたのか?」
「はい。陸上部で駅伝の選手でした」
「ふーん。スポーツマンか。顔は左程かっこ良くも悪くもないな。そーゆー中の上くらいのが女性にはモテるんだろうな」
「彼女はいるのか?」
「いません」
「あっそう。当社でも女性に絡む問題が多いから気を付けたまえよ。それと、法務部には独身女性はいないから、他で探せよ」
石田課長とのどうでもいい会話が終わったころ法務部の入口へと辿り着いた。僕は、まるで罪を犯した者が留置場に入れられるがごとくこの部屋に入れられた。
法務部は、知的財産課と法務課に分かれている。知的財産課は、自社で開発した特許に関する調査および特許庁への申請を専門に行うところで、大半の課員が弁理士の資格を持っているらしい。後で聞いた話だが、この課は、経験を積むと、特許事務所を開業し独立して辞めていくものが多いそうだ。
そして僕の配属された法務課はというと男性4名女性1名の総勢5名で主に各種官公庁に対する書類の作成ならびに申請と、社内における法的なトラブルの解決にあたるところである。僕の上司の石田課長は、難関である司法書士の資格を夜学に通いながら取得した勤勉家らしい。他の課員も社会保険労務士とか宅地建物取引主任者(現 宅地建物取引士)、行政書士の資格を持っているらしい。
「君も、法学部出身なら法律の勉強も兼ねて何か一つくらいは資格をとりたまえ」石田課長は、涼しげな目をして僕にそう言うと「おい角田君、新人の今井君を頼むよ」と僕の先輩になる角田さんを呼んだ。
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