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受付の女性社員は、その態度から何の疑いも抱かず、いつもの消火器の点検業者だと思い込み「はい、どうぞ」と業者を総務部まで通したのであった。
業者は総務部に入ると、いかにも“新人でーす”といった顔つきの女子社員を見つけ、
「すみませーん。消火器の点検にきました。受付で許可をもらいましたので、この紙に我々が来たという証のサインをお願いします」
とまるで宅配便の受け取り確認のような感じでサインを求めてきたのであった。
この女性社員は、今年の春入社してきた子で、名前を市川祥子と言った。祥子は、連中が消火器の点検業者らしく作業着を着ていたし態度が紳士的であったので会社が委託している点検業者だと思い込み、いつもやっている確認のつもりで紙に書いてある内容を把握せず言われるままにサインをしてしまったのであった。
その紙を受け取った業者の男は、「消火器が・・・本で、単価は・・・円、・・・で・・・になります」とテープレコーダーを片手に持ち、全く聞き取れない小さな声でボソボソと話を始めた。
「では、今から点検を始めますがよろしいですね」男の声が急に大きくなった。
「あっ、はい。お願いします」不意を突かれた祥子は思わずそう返事をしてしまった。
業者たちは、お互い顔を見合わせニヤリと怪しげな笑みを浮かべた。
そんな妙な行動が終わると、各自が素早くかけて行き、全ての消火器を集めてくると手際よく粉末剤の詰め替え作業を始めたのであった。
それから30分が経過したところ、守衛の一人が血相を変えて総務部へ駈け込んできた。
「だ・だ・だれです!連中に許可をだしたのは!」興奮している守衛に、
「何事ですか?そんなに慌てて」驚いた様子で総務課長の高田は聞いた。
「かか・・・、かってに消火器の詰め替え作業をしている連中がいましたので、何をしているのかと問いただしたところ、総務部と契約を交わしてやっていることだから文句を言われる筋合いはないと言うのです」
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