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「消火器の詰め替え・・・?そんなもの総務部は頼んだ覚えはないぞ!」高田課長は、ことの次第が分からんという顔つきでそう言った。
「ですよねー。私もそんな業者が来るなんて連絡を受けていませんし・・・ 消火器の点検なら三ヶ月前に済んだばかりでしたので、
おかしいなあーと思い聞いたところ、契約書を見せられまして・・・」
「契約書? とにかく、作業をやめさせて、その業者をここへ連れてきてくれないか。私が話を聞こう」
「はっ!そうしていただけますか」守衛は、高田課長に律儀に敬礼をすると業者の元へと向かったのであった。
しばらくして、総務部にある応接室に業者六人を連れてきた。我が社は総務部の石川部長と高田課長が対応した。
「君ら、断りもなしに何をやっているのだ!」オールバックの髪型で黒縁メガネをかけた高田課長が、業者に対して強い口調で切りだした。
「そっちこそ何を言っているんだい!こっちはちゃーんとおたくの会社と契約を交わしているんだ。これを見な!」業者の中で唯一の女性(パンチパーマ風の髪型で、女装しているオッサンのようなオバハン)が、女装した男が出しているかのような甲高い声で、交わしたという契約書を突きつけた。
石川部長と高田課長はその契約書を念入りに読んだ。
このオバハンが言うとおり確かに消火器の粉末剤詰め替え作業を委託する内容の契約書になっていた。しかも作業終了時には報酬として90万円を業者に支払うことになっている。そして承諾の証として、総務部 市川祥子の署名が記されてあった。
「いちかわしょうこ・・・」石川部長がその名をボソッとくちにすると、「部長!今年入社した市川君ですよ」高田課長は、渋い顔をしながらそう言った。
二人がそんなやり取りをしていると、
「どうすんだよ! おい!俺たちは契約書に基づいてやっているんだ。法律的にもなーんの問題もねー。止めろと言うなら、ここで作業を止めてもいいんだが、そこに書いてある通り90万円は、きっちりと支払ってもらうぜ!」さっきまで紳士ぶっていた男が、ヤクザ紛いのドスのきいた怒鳴り声をあげた。
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