樹木葬

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 すっと風が凪いで、私はぶるっとした寒気を感じて目を開けた。  大木の周りに花が咲き、それを遠巻きに見ながら頭を下げて手を合わせる人がいる。 (今日はお母さんの墓参りだ)  仕事で疲れて、うっかりベンチで眠ってしまうなんて良い年して恥ずかしいと思い立ち上がると、スカートを履いているせいか風が足を冷たくする。 そのままその大木に向かって足を進めた。  生前、母は家には墓があるのに樹木葬が良いと言って、勝手に終活なんて言い出してノートにさまざまなことを書きとめ、財産もないくせに弟と私に貯金通帳を渡してきた。  すぐに確かめてみれば母の貯金など十万程度で、弟に至っては五万円。  弟が母にこんなものいらないから旅行に行けばいいと言えば、『こんなものじゃないわ』と弟にその微々たるお金を渡して、強情に押し付けたのだ。  弟には家庭があり、確かにそれは有難いものではあったのだろうが、五万円くらいなら、旅行に行けばすぐになくなる。生前に使ってしまった方が良いだろうと、誰だって思うはずなのに。  樹木葬にしても、家には立派な墓があるのに、母はどうしても木の下で眠りたいのだと言って聞かなかった。  まだ生きている父なんて、海に出て散骨してくれというのだから、この先どうしたらいいのか、困ってしまう。 (どうして、木の下なんだろうね)  私はロープで張り巡らされた丘の前で手を合わせた。  とても墓とは見えないそこに、なぜか安堵してそして綺麗だと思ってしまう。  なんでだろう……、そんなことを思っていると、亡くなって一年しか経っていないというのに胸にこみ上げてくるものがあった。
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