二年ぶりの実家

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二年ぶりの実家

「おふくろが入院した」  しばらく連絡を取っていなかった弟から、突然、そんな連絡がきたのは三日前だった。  携帯電話で何度かやりとりをして病状や入院までの経緯を聞いた。  どうやら命には別状がなく、退院後も普通に生活できるとわかったときには、さすがほっとしたものだ。 「なるべく早く帰るよ」  そう口約束をしてから、会社に有給を申請して休みを取るまでに二日かかった。仕事が忙しかったからで、帰省を先延ばしにしたかったからではない……と思う。たぶん。  高速道路を降りたあとは、故郷の集落までは下道(したみち)を一時間ほどひた走る。すでにあたりは一面、田んぼと畑だ。  弟からの情報と、この付近の地図をつなぎ合わせると、母が入院している病院は国道から近かった。家には寄らずに直接向かってしまったほうが早い。  だけどあいにく、今の服装は病院の面会向きとは言えなかった。黒のライダースジャケットに、ブラックデニムとブーツ。ロック歌手みたいな自分の出で立ちを見下ろして、あたしは気にしないけど、母は気にするだろうなと考える。  着替えは用意してあった。バイクの荷台に(くく)りつけたバッグには、母が好みそうなワンピースとパンプスまで仕込んである。でも、着替える場所がないのだ。  帰省の憂鬱・その1:電柱と看板以外の建造物がほぼ見当たらない。 (……しょうがないな。いったん家に行ってノアに車を出させるか)  道ばたに停車して弟の携帯電話に連絡を入れてみるけれど、いっこうにつながらない。二回ほどかけてあきらめ、家に向かった。
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