二年ぶりの実家

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 二年ぶりの実家は、まるで変わっていなかった。ゆるい傾斜道(けいしゃみち)の突き当たりに建つ、山を背負った一軒家。  広々とした敷地内にある母屋(おもや)は、築五十年を越えているらしい。光沢のある青い(かわら)屋根(やね)は、可愛いのでまあまあ気に入っているけれど、玄関回りの壁にはタイルが貼ってあり、木枠の引き戸ともあいまって昭和感あふれる佇まいだ。  バイクを停めた車庫には弟のものらしき車があった。二年のあいだに買い換えたのか、まだ新しい。  家に入ろうとして、玄関の柱の(かげ)に隠すように停められた自転車にも気が付いた。なんの変哲もないママチャリだけど、よく見るとギアがない。坂道の多いこのあたりでこんなものに乗るとは、ずいぶん元気だ。  そこまで考えて、ふと誰のだろう?と思った。弟は自転車など乗らないだろうし、母だってもう少し良い車種を買うんじゃないだろうか。  引き戸に手をかけると、玄関扉は抵抗なくからりと開いた。鍵をかける風習がないところも相変わらずだった。 「ノア、いるの?」  声をかけながら、履きつぶしたスニーカーやゴム製の黒い長靴などが雑多に置かれた三和土(たたき)を直進して家に上がる。  台所へと続く細い廊下にさしかかったとき、浴室の方向からシャワーの音がして、石けんの香りがだだよってきた。  水音を縫うように話す声が聞こえる。ひとつは弟の声。もうひとつは知らない若い男の声。どちらの声も奇妙に甘くて、会話のさなかに話し声とは別の種類の声が混じる。
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