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ノアがあたしたち家族にカミングアウトをしたのは、二〇〇四年の一月、今から八年間のことだった。
あたしはちょうど成人式に出席するために帰省していて、弟はセンター試験を目前に控えていた。父と祖母も、まだ健在だった。
その父がノアの告白を聞いて激怒した。怒鳴り合いと殴り合いとが交互に起きて、何度目かの口論の末にノアは勘当を言い渡され、家を出ていった。当然、大学進学もおじゃんだ。
これが二〇一二年の東京だったら、ここまでひどいことは起きなかったかもしれない。
だけど、さしあたって二〇〇四年の日本の田舎町でノアの身に起きたのはそういうことだった。
ノアはほとんど身ひとつで町をあとにして、名古屋や大阪方面を転々とした。関西だけでなく中部や関東、たまに東北や九州も、全国をあちこち移動していたらしい。
東京にきたときは、向こうから連絡をもらって一緒に食事をしたこともあった。
もっとも、当時のあたしは寮に住んでいて、貯金もなかったからノアの助けにはならなかった。
そもそも、弟はあたしの助けを必要としていなかった。大学受験をするくらいだから頭は良かったし、仕事のセンスもあったのか、どこの町でもそれなりに暮らしていたようだ。
ノアが勘当されたあと、前原の家でも事件は起きた。
まず、祖母が転倒して腰の骨を折り、寝たきりになってしまった。しゃんとした人だったのに、動けなくなってからは、みるみるうちに弱っていって、次の年にあっけなく亡くなった。
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