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大音声をあげる茂平
魔宮の前には人々が溢れ返っていた。歓楽街の雰囲気を数十倍にしたような猥雑さの中、人々は皆酔っ払っているのか、云いようもなくふしだらで、淫らであり、互いに罵り合ったり?み合ったりしていた。各自がてんでばらばらで欲情や復仇のカオス、その極みの観がある。しかしこの無法地帯を制する唯一のエレメントである巨大な‘力’の出現に、人々は潮が引くように左右に分かれA子とB子に道を譲った。さも恐ろしげに、しかし卑屈さいっぱいの恭順と阿りをもって魔王を見上げる。
「さあA子。B子と共に中に入るがいい。お前たち二人を車で連れ去り、犯し、縊り殺した男たちはすべて捕らえ、鎖で繋いである。煮るなり焼くなり存分に恨みを果たせ。然るのち復仇と報復の女王となりて、我と共に世に君臨せよ。お前の無念に応えて、わしが造り与えた魂と肉体であることを忘れるな」。
云うことを聞かねばB子を抹殺するという魔王の脅しにも負けて中に入り行こうとするA子。何かが決定的に間違っていた。この時天啓のようにすべての経緯を瞬間的に私に知らせる存在があって、あろうことか私は魔王も衆目も恐れずに通りの真ん真ん中に進み出て、大音声以て受けた啓示を告げていた。
「違う!A子さん、君に身体を与えたのは此奴じゃない!」。魔王への‘こいつ’呼ばわりに人々が目を丸くして私を見詰める。この世界では誰も口にしえないことだったからだ。しかし操られるかのごとく私の口は勝手に言葉を紡ぎ続けていた。「不幸にも君がこの世を終えて天国に戻る時、‘何か思い残すことは?’と導きの光に聞かれたはず。その時君は‘家族に申し訳ない。B子も救えなかった。キリスト様のお手伝いも何一つ出来ませんでした’と答えたんだ。御光は憐れまれ、願いを叶えられた。すなわち君の美しい心のままに、奇跡の美以て身体を与えられたのだ!」。
【魔王にもの申す茂平のイメージ】
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