第一章、クーリングオフ

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「そうですね。脅迫による契約の取り消しもできますが、契約締結日からまだ8日が経っていませんのでクーリングオフが使えますよ」 「クーリングオフ・・・?」  女性社員は、何のこと?と言う顔をした。 「ああ、クーリングオフと言うのは、特定商取引法第9条で、今回の様に訪問販売による契約をした場合、契約締結から8日以内であれば、無条件で解約できるという制度です。但し、こちらから業者に対して解約の意思表示をしなければなりません。電話をして口頭で解約の意思を伝えても良いのですが、悪質な業者だと「聞いていない」と突っぱねることがあります。後で揉め無い様、ここは内容証明郵便で出して、解約の意思表示をしたという証拠を残しておくのが無難です」 「意思表示・・・?内容証明・・・?」  普段あまり聞き慣れない言葉を聞いて、女性社員は戸惑いを見せた。 「えーと、内容証明郵便で出す文面は、僕の方で今から作成します。それを業者の宛名を書いた閉じていない封筒と一緒に郵便局へ持って行き、内容証明郵便で、と言って出して下さい。それで、解約は完了です」  僕の説明に女性社員は安堵の表情を浮かべた。 「そうですか、ありがとうございます。総務部の市川さんに相談したら、法務部の今井さんを教えてくれたのです。ほんと良かったです」  市川・・・!?ああ、消火器事件の市川祥子ね。僕のこと覚えていてくれたのだ。 「いえいえ。また何か困ったことがあったらいつでも相談に来て下さい」  そう調子の良いことを言う僕であった。 そんなことで、ますますこの仕事にやりがいと使命感を持つ様になってきた頃、同期から、こんな厄介な相談が持ち込まれた。
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