第ニ章、同期からの相談

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 日も暮れたというのに、蝉しぐれが鳴りやまない蒸し暑い並木道を小走りで同期の松枝(まつえだ)が待つ喫茶店へと向かった。 会社から歩いて10分ほどのところにあるこの喫茶店は、ちょっと古めかしく、それでいてどこかエレガントな趣だ。中に入るとそこは外の蒸し暑さとは打って変わって楽園のような清涼感だ。爽やかな心地よさを感じながら奥の席へ進むと、目当ての松枝がしょんぼりと飲みかけのアイスコーヒーを前に煙草を吹かしていた。                        「やあ、待たせたな」  僕が声をかけると、松枝は虚ろな目をしながらこちらを向いた。 「悪い、呼び出したりして」  松枝にいつもの能天気さは無かった。  この松枝と言う男は、新入社員の時、工場での現場実習で、どんなに忙しくても残業を拒否し、いつも定時に帰るので、「定時マン」と陰口を叩かれつつも女の子たちを誘ってコンパに明け暮れていた。配属されたのは営業部で、「会社の花形は営業だ!」と自慢げに吹聴していた。ウエーブのかかった髪に丸眼鏡をかけ、口が一文字で、まるで忍者ハットリ君みたいな顔をしていて、ワイシャツの下にアンダーシャツを着ない気障な奴である。 要領よく立ち回るので顧客からの受けも良く営業成績も伸びているので会社では大きな顔をしている。真面目さだけが取り柄の僕は、松枝とは真逆の人間であり、同期ではあるが、内心あまり良くは思っていなかった。 「で、話ってなんだ?」  僕は心なしかぶっきらぼうな口調になっていた。 「絶対、誰にも言わないと約束してくれるか?」  松枝は相変わらず自分本位で、いきなり秘密にすることを約束させられたが、こんな不安気な顔は初めて見た。 「分かった。誰にも喋らないよ」 と言いながらも、厄介ごとだなと直感した。 「・・・。じつは、飲み屋の女に脅されてて・・・」  松枝は、さすがに同期の僕に醜態をさらけ出すのが気恥ずかしいと見え、わずかに聞き取れる程の小声になっていた。 「えっ、飲み屋の女に脅されてる?・・・。松枝、一体どういうことなんだ」  僕の表情が険しくなったせいか、松枝は気まずそうな顔で事の経緯を話し始めたのであった。
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