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六月末のうだるような暑さも午後十時ともなれば幾分はましになる。昼間の暑さが何かの冗談とでも言うようなちょっと涼しげな夜の街を俺は愛車(ただのママチャリ)で駆け抜ける。ここ八前市はベッドタウンだ。特急列車が停まる駅もあれば駅周辺には大規模デパートもあり、この時間であっても活気がある。居酒屋で飲んだくれたおっさん達に、家族の元へ急いで帰るサラリーマン。そんな駅前の群衆に逆らいながら俺はペダルを踏み続けていた。俺の家があるのは八前市とは願い大橋を挟んで隣の香蘇町。人口減少に高齢化が危惧されている田舎町だ。本来、塾くらい家の近辺に通いたかったのだが、香蘇町に存在しないのだから仕方がない。よって仕方なく毎週木曜日、こうして学校から直接向かい夜遅くに帰る生活を続けていた。
自転車で一〇分、周囲の喧噪は完全に消え去った。駅周辺から1.5キロ。交通量のほとんどない闇夜のなか、願い大橋はあった。
人通りの少ないこの橋はよくでることで地元民から有名である。なんでも、この橋で以前に起きた飲酒運転事故、それから毎晩のようにセーラー服の幽霊が橋を闊歩しているだとか何だとか、よくある怪談である。そんなの半年間こうやって塾を行き帰りしている分には一度も見たことないというのに。そもそもそんなのいちいち真に受けていては体が持たない。そう思い直してペダルに力を込めようとしたそのときソレを見て俺はとっさにブレーキをかけた。
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