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そんな彼女が、百面相みたいにコロコロ表情を変えながら思い悩んで居るのを、よく目にするようになった。
また、変な男に引っかかったな。
すぐ、そう判った。
彼女は、恋愛ボケが酷いタイプだ。猪突猛進で、仕事そっちのけでその人のことばかり考えてしまうような。
良い歳して、そろそろしっかりして欲しいとは思っているんだけど。
その危なっかしくて放っておけないところも、彼女の魅力の一つだ。
だけど、そんなにうかうかしてられない出来事があった。
ある日、営業先から会社に戻ってくると、エレベーターのドアが開くと同時に誰かにぶつかって。
俺を見上げたのは陽奈だった。
頬を真っ赤に染めて、瞳を潤ませて。
同じエレベーターの中には、俺の上司である藤堂部長。
一発で、分かってしまった。
今、陽奈が熱を上げているのは、藤堂部長だって。
藤堂部長は、俺の上司。容姿端麗で、仕事がデキて、人望も熱く、女性社員からの人気も高い。
だけど、浮いた噂の1つも無くて、俺からすれば言葉は悪いけど「気持ち悪い」と思っていた。非の打ち所が無さすぎると言うか、なんと言うか。
だから直属の上司と言えど、少し距離を置いていて。まあ向こうもその距離を詰めて来ないから、過ごしやすいと言えば過ごしやすかったんだけど。
まさか陽奈が、そんな難攻不落の城を攻め落とせるわけがない。
おかしいと思って色々調べていたら、彼女はどうやら出世に利用されたらしく。
彼女を問い質して、忠告して。余りにも聞き分けが悪いから、勢い余って、長年あっためてきた気持ちを伝えてしまって。
計画性の無い俺の一世一代の大告白は、「無理!」という心ない台詞を浴びて、惨敗に終わった。
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