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年末年始は、実家に帰る気が起きなかった。
帰ったら陽奈に鉢合わせるのが目に見えていたし、気まずそうにされたり無視されたりしたら、傷に塩を塗るようなものだ。
だから、「出張が長引いた」とか適当に言い訳をして。別のタイミングで帰ると約束した。
のに、新年最初の勤務後、俺を待ち伏せしていた彼女が、目の前で何か言いたげにモジモジした時は驚いた。
頬を染めて、俯いて、明らかに照れている様子で。
27年も一緒に居るのに、そんなところ、見たことがない。
俺に見せて欲しいと思っていた表情を、まさに目の前でされたから。俺の感情は最高潮に高ぶった。
まさか、まさか。
潤んだ瞳と目が合ったら、咄嗟に逸らされて。髪を弄る仕草を見て、確信した。
陽奈、俺のこと、好きなんだって。
「…もう良いよ、陽奈」
思わず、笑みが溢れてしまった。
だって、絶対叶わないって、本気で思ってたから。
まさか、こんな日が来るなんて。
「え、」
驚いている彼女の手を引いて、胸の中に閉じ込めた。
彼女が落ち込んでる時や、喧嘩した時。こうやって抱き締めて、慰めたり仲直りしてたけど。今は、全然感覚が違う。
「もう分かったから、陽奈の言いたい事は」
ギュッと抱き締めて、耳に唇を寄せた。
「ありがとう、嬉しい…」
それは、心から溢れた言葉だった。
それから3日で同棲を始めて、春になったらプロポーズをした。
周りからすれば付き合って速攻だな、って思われたかもしれないけど、俺からすれば27年も待っていたから、特に急いだつもりもなかった。
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