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1 憧れの人と幼馴染
「あ、藤堂部長だ」
会社の、エントランスロビー。
女性社員のその声で、ピクリと反応してしまった。
見ると、沢山の社員から次々に飛んでくる挨拶を完璧な笑顔で返しながら、私がいるエレベーターホールに向かってくる男を見つけた。
藤堂湊。
私が勤める大手IT企業、webコンサルティング事業部の部長。眉目秀麗、頭脳明晰、品行方正。褒め言葉を盛りに盛りまくっても足りないくらい、実にデキた人だ。部下からの信頼も厚く、女性社員からの人気も高い。
でも浮ついた噂の1つも無いし、仕事が恋人だというのが定説だった。
そう、昨日までは。
「と、藤堂部長…おはようございます」
「おはよう、橘さん」
ニッコリと笑顔を向けられて、いとも簡単にハートを射抜かれた。
今日も、格好良すぎる…!
通勤ラッシュの時間帯ということもあり、エレベーターホールは超満員。エレベーターの扉が開くと、途端に人が雪崩れ込み、無理やり奥へと追いやられた。
「おっと、ごめんね」
窮屈なエレベーターの中、壁側に追いやられた私に覆い被さるような体勢で、藤堂部長が乗り込んで来た。後ろから押されて、身動きが取れないらしい。
「こ、こちらこそすみません」
至近距離で、顔が熱くなる。心臓の音がうるさい。
私が俯いていると、微かに笑われた気がして。背の高い彼を見上げると、艶っぽい微笑みを浮かべていた。その魅力的な笑顔が、どんどん私に近寄ってくる。
ーーー昨日は楽しかった。また、ね。
耳元で囁かれ、背筋がゾクゾクと震えた。
キ、キスされるかと思った…!
動揺する私を他所に、彼は目的のフロアで降りていった。
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