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さっさと夕食を終えると外に出た。潮の匂いを乗せた夜風が、優しく頬を撫でる。
辺りを見回すと、駐車場をホテルのご主人が徘徊していたので、なんとなく声を掛けた。
「すみません。この辺にコンビニありますか?」
「あんだってぇ?」
聞こえなかったようなので、もう一度聞き返す。
「ここから、一番近いコンビニって、どこですか?」
「あぁー。山下ってすぐだよ。そっちの坂下ってねぇ」
今度はちゃんと聞こえたらしい。彼は同じ所を何度も行ったり来たりしながら、そう答えた。
「失礼ですが……何してらっしゃるんです?」
私が尋ねると、ご主人は口元にうっすらと笑みを浮かべた。
「それがな、さっきこっから中へ入ったはいいんだけどよぉ、はて何しに中入ったか思い出せねぇでね。もっかい外出て来てんの」
「そうですか。大変ですね」
「あんか思い出したかったらよぉ、もといた場所に戻って考えるってなぁ!」
ご主人は突然大きな声を出し、楽しげに「だはは!」と笑った。
山ノ上ホテルという名前の通り、このホテルは町を見下ろす山のてっぺんにあるため、コンビニへ行くには長い長い下り坂を下っていかねばならなかった。
「田舎は蚊がすげえな」
道中何匹も蚊を叩き落とした。
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