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 一真と翔真が五歳になった年に,会社で大きな問題が発生した。  不景気のあおりを受けて年々受注件数が減っているなかで,ほぼ決まっていた大型案件が突然他社に流れてしまった。まさに寝耳に水といった状況で,誰もがどうして契約を逃したのか理解できずに困惑した。  会社としては,今期の売り上げの四割近くをこの案件で占め,事業が終わるまで長期的に安定した数字が見込まれていた。それだけ重要な案件だったので,数年前から社内でチームを立ち上げて綿密な準備と根回しをしていた。それがあっさりと他社に取られてしまった。  すぐに本社から複数の人間がやってきたが,すべて後の祭りだった。あちこちから情報を集めたところ,契約を奪い取った会社にさまざまな業界から天下り人材が集まっているのがわかった。しかも彼らの天下り先はその会社ではなく,受け皿として五つの子会社が立ち上げられ,天下りのほぼ全員が役職を付けずに名前が表に出にくいよう巧妙に振り分けられていた。  この失策に対する本社からの叱責は尋常ではなかった。社長をはじめ取締役の約半数が責任を取る形で辞任させられ,残った役員は減給処分もしくは降格処分となった。大手ゼネコンといっても気性の荒い者が多く,子会社の失敗に対して異常なほど厳しい処罰が与えられた。  謙一もチームの一員だったため,三カ月の減給処分を言い渡された。他の役職者に比べれば軽いほうではあったが,小さな会社でこれほどの処分を受けることは,今後の出世にかかわる致命傷でもあった。
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