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今回,処分を受けた者のほとんどが,半年もしないうちに会社を去っていった。なかには案件を奪った会社に再就職する者もいて,地元の人脈をそのまま持って行ってしまった。
その中の一人に謙一と中学・高校の同級生だった三浦憲保もいた。三浦の人脈は,地元の人間ならではの独特なものだった。とくに三浦の曾祖父がいくつもの山を所有する大地主だったこともあり,地元の有力者たちとは生まれる前から繋がっているようなものだった。
三浦は今回の大量処分を納得できず,本社を相手に裁判を起こすと騒いでいたうちの一人だった。それがある日突然,何事もなかったかのように退職願を提出すると大人しく引き継ぎ業務をこなしてから有給消化に入り,そのままライバル会社に転職していった。
謙一も転職を考え動き出そうとしたのだが,膨大な量の仕事を前に完全にタイミングを失い会社に残る羽目になってしまった。謙一の仕事量をみて他の社員達は謙一を心配したが,結衣の家庭での献身的なサポートのおかげでなんとか乗り越えられた。
そんな状況にもかかわらず減給処分がとけ,期が変わると,謙一の役職は課長から係長へと降格された。社員全員が理不尽な見せしめ的な降格だとわかっていたが,本社に対して意見を言える者などおらず,誰もが自分に火の粉が飛んでこないための保身に必死だった。
期が変わるとともに会社の役職者の半数近くが本社からの新たな出向組に入れ替えられ,これまでの仕事の流れを大きく変更させられた。出向組も自分たちに落ち度がないように本社に戻るまでの間に失敗がないことだけを求める者もいれば,自身の実績を作りたいと無理な要望を出向先の社員に押し付けてくる者もいた。
降格させられた謙一へのプレッシャーは尋常ではなく,とくに出向組で謙一よりも学歴の低い社員が露骨にパワハラを与えた。もっとも謙一を目の敵にし,理不尽な要望ばかり押し付けていたのが,謙一よりも三歳年上の山上裕也だった。
山上は新卒で本社に入り,それ以来ずっと本社務めだったが今回初めて子会社への出向となり,ここで結果を出そうと必死になっていた。そして自分と齢の近い謙一が,自分よりも高学歴で幸せな家庭をもっているのが気に入らなかった。
これまで内勤だった謙一も営業に移動させられ,社内は総務と経理以外はほぼパートのみとなった。
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