9/11
117人が本棚に入れています
本棚に追加
/48ページ
 明け方四時を過ぎたころ,誰もいない露天風呂の裏手にある古い溜池に双子とその母親の身体が浮いているのを従業員が発見した。  その溜池は明治の旅館創業時に温泉のお湯を有効利用するため,温泉を溜め池から近所の畑の脇を流して土を温めて,冬場でも畑で農作物ができるようなシステムが造られたものだった。昭和十五年頃までは使われていたが,第二次世界大戦の開戦とともに人手不足を理由に溜池は利用されなくなった。  それ以来,溜池はゴミが溜まらない程度の管理しかしていなかったが,この日はたまたま従業員が子供の身体の一部に目が止まり,すぐに三人が発見された。  宿の露天風呂は,午前四時から六時までが清掃のために使用できなくなっていた。毎日,温泉を抜き,床をデッキブラシで掃除するのだが,清掃前に誰かが三人をすぐ横の溜池に投げ入れたと推測された。  すぐに警察と救急がやってきて,三人を病院に運んだが双子は池のなかで溺死が確認され,母親はかろうじて命は取り留めたが,これから何度も手術をしなくてはならないほど,顔や全身の骨が砕かれ臓器への損傷も確認された。  慰労会はすぐに中止になり,警察の取り調べのために宿泊者全員が調書を取られることになった。社員達は積極的に協力し,唾液や指紋の提出も躊躇することなく協力した。  警察では,結衣の体内に残された体液も調べたが,宿泊者の中にDNAが一致する者はいなかった。  捜査にかかわった者のすべてが驚愕(きょうがく)したのは,双子が二人とも犯されていて直腸が破裂していたことだった。とくに翔真は何度も犯された形跡が残っていて,生きているときに力任せに股関節が外されているのが骨折の仕方と(あざ)のでき方でわかった。
/48ページ

最初のコメントを投稿しよう!