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「おい! ふざけんな! てめぇ,ナメてんじゃねえぇぞ! おぃぃぃ,こらぁぁぁ!」
土曜日の夕方,普段滅多に行かないスーパーマーケットで夕飯の買い物をしていると,店内に響き渡る女性の怒鳴り散らしている声が聞こえてきた。
この町には仕事で六ヵ月間だけ滞在することになっていたので,土地勘もなくいつもは会社が用意してくれた単身者用のアパートの近所にあるコンビニと小さな商店で買い物をしていた。
週末に食材を″まとめ買い″しておこうと少し離れた大型スーパーに来てみたのだが,怒りの収まらない客がお店に対してクレームを言っているのだろうと,なにが起こっているのか興味が湧きどうしようもなく確認したくなった。
『それにしても,この人,相当ぶち切れてるな……』
店内に響き渡る怒鳴り声の主を探すようにゆっくりと商品棚を移動すると,一人の女性が目に止まった。年齢は四〇代,痩身,黒髪で肩までのストレート,化粧はしていないようでほぼスッピンだが長い睫がアイメイクをしているように見せた。全体として地味な印象だが,そんなどこにでもいそうな女性がショッピングカートを押しながら大声で怒鳴っていた。
トラブルでも起こっているのかと思い遠目で観察していると,ずっと誰もいないところで店内に響き渡るほどの大声で怒鳴り続けていた。
俺は近づかないように気を付けながら買い物を続けたが,女性がなにに怒鳴っているのか興味があり聞き耳を立てた。
「ふざけんじゃねぇ! ぶっ殺すぞ! 馬鹿にすんじゃねぇ! てめぇ,誰に対してモノを言ってんだ!」
誰に対して怒っているのか,誰に文句を言っているのかわからなかったが,ずっと一人で怒鳴り続けていた。
周りのお客さんは,怒鳴り続ける女性を無視するかのように普通に買い物をしていた。
『ああ……ああゆう人なのか……うちの実家にもいたな……』
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