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 憲保は地元の大学を卒業すると,当然のように堀田の勤務する会社に就職した。堀田は憲保には別の会社に行って欲しいと思っていたが,この頃になると堀田は常に憲保の機嫌を覗うようになっていて,あまり強く意見を言えなくなっていた。そしていつの間にか,呼び名も憲保ではなく三浦と変わっていった。  三浦の自己顕示欲は社内でも突出していて,新入社員の時から誰に対してもやる気と負けん気をみせていた。しかし経験が浅いためにミスも多く,そのほとんどを堀田が陰でフォローしていた。  そして入社して数年経ち,三浦が謙一とともに課長職だったころに同業他社に大型案件を横取りされてしまった。会社の存続が危ぶまれるほどの損失になり本社の人間がやってきて調べたところ,同業他社の関連会社に大量の天下りがいることがわかった。  三浦も責任者の末端として減給処分を受けたが納得できず,一部の組合員とともに本社を相手に裁判を起こすと騒いでいた。その様子を見ていた堀田は,裏でライバル会社の取締役に三浦を引き取って欲しいと頭を下げていた。  堀田はここでも人脈を活かし,三浦が問題を大きくする前に転職させ自分からも距離ができるよう画策し,誰にも気付かれないように実行した。その根回しは,三浦本人にも知らせず,まるでヘッドハンティングの対象になったかのように話を進め,それが三浦の自尊心をくすぐった。  そしてある日突然,三浦は何事もなかったかのように退職願を提出すると大人しく引き継ぎ業務をこなしてから有給消化に入り,そのままライバル会社に転職していった。しかし新しい職場では,今までのように堀田のフォローがないため,三浦のミスばかりが目立ってしまい本人も徐々に大人しくなっていった。
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