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 しばらく大人しくしていた三浦が,突然堀田の前に現れた。そして転職した会社を辞めて実家の商売の手伝いをしていると寂しそうに話した。堀田の下で働いていたのが四年近く前のことだと懐かしそうにし,転職した会社ではなにをやっても上手くいかず,自分の居場所が完全になくなっていたことを他人事のように話した。しかしそれは堀田にとって一番望んだ状況だったので,三浦に悟られないように静かに喜び,自分の思い通りになったことに満足した。  堀田は思いついたように近々会社の慰労会を地元の老舗旅館でやることを伝え,三浦にも偽名を使ってこっそり部屋に泊まるように言った。堀田が社会人になってから,何度か連れられて来たことのある旅館だったので三浦は黙ってうなずいた。  当日, 離れの露天風呂がついている部屋を用意した。三浦が来るとわかった日に,堀田が旅館のオーナーに直接連絡をして宿泊名簿に名前を載せずに会社の人間が来る可能性の少ない離れの部屋を押さえていた。  三浦はチェックインすることなく,以前からそうしていたように裏口から宿に入り部屋についた露天風呂に入って寛いだ。堀田が到着したときは,浴衣姿で横になってテレビを観ていた。久しぶりにゆっくりできる時間と空間にお互いに変な緊張感があり,しばらく二人とも黙ってテレビを観ていた。そして体勢を変えようと三浦が身体を動かしたのを合図と勘違いした堀田が,三浦の手を引いて自分の身体に密着させた。  久しぶりに抱き合い,キスをした。どれくらいの時間が過ぎているのかわからなかったが,夢中になってお互いの身体を求め合った。  そして一緒に露天風呂に入り身体を重ねていると,庭の片隅から露天風呂を覗き込んでいる人影に気付いた。三浦が慌てて風呂から飛び出して人影を追うと,芝生の上を走って行く山上の後ろ姿が見えた。 「武ちゃん! 誰かいる! 見られた!」  堀田はその後ろ姿ですぐにそれが山上だとわかった。  まさか山上に見つかるとは思ってもおらず,三浦を部屋に残して慌てて浴衣を着て部屋を飛び出した。
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