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部屋に戻ると,今度は畳をすべて剥がし布団やシーツもすべてまとめて旅館の裏手に運び出し数年前に導入した高性能な焼却炉に投げ入れた。
男が焼却炉のスイッチを入れると,音もなくあっという間に畳みも布団も灰になり,煙突からは白い煙が静かに上がっていった。
「堀田さん……これで貸し借りなしだ……随分と長いこと,あんたには好き勝手にたかられていたが,それも今回の件で終わりだ……」
「ああ……わかってる……。この旅館が潰れずに済んだのは結果として俺にも都合がよかったからな……。バブルが弾けて借金まみれになっていたあんたを助けた甲斐があったってもんだ……」
「あぁ……だけど,もう……うちの旅館には関わらないでくれ……。俺ともかかわらないでくれ……」
「ああ……わかってる。それにしてもなんで,三人を溜池に? あんな凄い焼却炉があるなら,三人を火葬したほうがよかったんじゃないのか?」
男は少し考える素振りをしてから,まるで別人のような目つきで堀田の眼を見た。
「生きてる人間を焼くと,すげぇ臭せぇんだ。しかも大きい骨は灰になっても残るし,脂肪がこびり付いた焼却炉の掃除も面倒なんだ。以前,人間を二人焼いてるが,正直こりごりだ……」
「そ……そうか……」
そう言うと面倒臭そうにしながら,男は暗闇へと消えていった。
それからしばらくの間,この部屋はオーナーが個人的に使用するため,客を案内することを禁止された。従業員は皆,古くからこの旅館で代々働く者しかいなかったのでオーナーの言うことは絶対だったうえに,疑問に思うことすら許されなかった。
残された堀田と三浦は畳の剥がされた殺風景な部屋に戻ると,自分たちの指紋が残らないように徹底的に部屋の掃除をした。
そして堀田の命令で,三浦は誰にも気付かれないように静かに車で宿を後にした。
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