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しばらくして,小学生四人組がスーパーに入ってきた。四人はお菓子売り場に直行すると,おのおのお菓子を手に取り,どれを買うか吟味していた。
お菓子を一生懸命吟味している小学生が,店内に響き渡る怒鳴り声に気付き大袈裟に反応した。
「あっ! 文句婆だ! 文句婆がいる!」
興奮した小学生たちがお菓子を棚に戻し,商品棚を壁にして女性に見つからないように近づいて行くのが見えた。周りの大人は怒鳴り続ける女性を見て見ぬふりをしていたが,楽しそうにしている子供たちを見て眉をひそめていた。
『文句婆っていうのか……。きっと,この辺りの有名人なんだろうな……』
子供たちが楽しそうにしながら女性に気付かれないように姿勢を低くして商品棚を行ったりきたりしているのを,なんとなく懐かしい気持ちで眺めていた。
『子供たちは,いつもこんなことやってんのかな……? あの女性は子供たちを怒鳴りつけるのかな……?』
コソコソを女性の後ろを付いて回る子供たちが商品棚に隠れていると,女性が急に立ち止まって振り返り子供たちを睨みつけた。
「やべぇ! 逃げろ! 文句婆に見つかった!」
子供たちは大慌てで,なにも買わずにスーパーを飛び出して行った。その様子を女性は気にも留めず,相変わらずなにかに怒鳴りながらカゴにレトルト食品やカップラーメンを入れていた。
「ふざけんな! てめら,ぶっ殺すぞ! うるせぇんだよ!」
大人たちは女性が近づいても,何事もないかのように普段通りに買い物をしていたので,非日常が日常になっているようで不思議な光景だった。
『人に危害を加えるようなことはないんだな……。それにしても,みんなやけに慣れてるな……』
しばらくして女性は怒鳴り散らしながらレジで会計を済ませ,スーパーを出て行ったが怒鳴っていなければごく普通の買い物をしている女性にしか見えなかった。
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