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 警察が医師の指導のもとで結衣への聴取が行ったが,結衣はなにを聞かれても反応せず,山上の遺体が倉庫にあることをどうやって知ったのかが焦点になった。  結衣と同年代である栗林由香里(くりばやしゆかり)が聴取を担当した。栗林は結衣と会った瞬間から,結衣の精神がおかしくなっているのに気が付いていたが,微かに残る記憶から少しでも事件の解決につながるヒントがないか,時間をかけて丁寧に話しかけた。  ときおり,結衣が「一真に会いたい……翔真に会いたい……二人はどこにいるの……? なんで会いに来てくれないの……?」とボソボソとつぶやいた。  栗林は「二人は謙一の実家で面倒をみている」「二人に会えるよう頑張って手術とリハビリを頑張ろう」と優しく何度も伝えた。  限られた時間ではあったが,医師が許す限り栗林は結衣に少しでも心を開いてもらおうと積極的に話しかけ,山上がどうして倉庫にいるのを知ったのか聞き出そうとした。 「一真……翔真……どこにいるの……お母さんのところに来て……」  なにを話しても最後は双子の名前を泣きながらつぶやくだけで,どんなに時間をかけても結衣から聞き出せるのは,死んだ双子の名前だけだった。
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