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 結衣が自分で食事を口にできるまで回復する頃になると,介護疲れのせいか謙一の体調が優れない日が続いた。  ひどい肩と腰の痛みに苦しめられ,食欲はあるのに体重が減っていった。必要以上に湿布を全身に貼り,痛みがあると鎮痛薬を大量に呑んだ。  謙一の呼吸は浅くなり,寝ても覚めても肩と腰の痛みに苦しめられた。体調が悪いと,鎖骨が砕けるような錯覚を起こすほどの激痛に眠れずに何日も徹夜することもあった。  そんな状態でも結衣の介護をしなくてはならず,誰かの手を借りたくても結衣の介護をするために休職したために貯金を切り崩した生活を送っているので人を雇うこともできなかった。  やがて結衣は一人で歩けるようになり,近所であれば散歩に行けるまで回復した。ただ,一真と翔真の記憶が曖昧で,まるで一緒に生活しているかのようになにもないところに向かって二人の名前を呼んだり,話しかけるようになった。  謙一の身体が日に日に痩せ細り,激痛で立っていられないことも多くなった。そして浅い眠りのなかで度々,一真と翔真が迎えに来ているような気がしてなにもないところに手を伸ばしたり,声を掛けるようになった。  結衣もそんな謙一の姿を見て,一真と翔真が帰って来てると思い込み謙一が二人の名前を呼んでいると嬉しそうに部屋の中を探して回った。
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