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 結衣は自宅から離れた施設に入れられ,毎日を日当たりのよいベンチで過ごした。施設にいる者は,そのほとんどが精神疾患を患い,満足な会話ができるものはほとんどいなかった。  結衣はそんな患者達が怖く,大きな声で話しかけられると恐怖で失禁してしまった。徐々にではあるが,日常生活を送れるようになり,施設の職員と一緒に近所のスーパーマーケットで買い物ができるくらいまで回復した。  しかし,謙一をはじめ一真と翔真が既にこの世にいないことは理解できず,一度外出すると三人を探して一日中歩きまわり施設に戻ってこないことが度々あった。  田舎の住宅街を徘徊する結衣を警察が度々保護していたが,いつも決まったルートを歩いていて,それは数年前に何度か家族で歩いたことのある道で結衣はその道以外を歩こうとはしなかった。  やがて結衣の耳が聴こえなくなり,視力も極端に悪くなっていった。回転性の眩暈(めまい)がひどく,真っ直ぐ歩くのが困難になった。  この頃になると,子供達から文句婆(もんくばばあ)という名前が付けられ,施設の周りで結衣のことをしらない者は少なくなっていた。  結衣は普通に話しているつもりだったのだが,子供達にからかわれ,見ず知らずの大人達からも冷たい仕打ちを受けていた。  謙一や子供達の姿も見えなくなり,毎日家族を探して徘徊する結衣の姿は,近所では迷惑な存在として度々施設に苦情が寄せられた。  ある日,そんな結衣を年老いた両親が施設から引き取らざるを得なくなった。  施設には認知症の高齢者も含まれ,地元の老人が何人かいた。そのなかに堀田の親族もいて,結衣がペンで手を刺してしまう事件を起こしてしまった。  見ていた者の話だと,堀田の親族が結衣に性的なチョッカイを出した瞬間,結衣が近くに置かれていたペンで相手の手を突き刺し貫通させてしまった。  堀田側からの希望で表に出ないよう処理をしたが,結衣は施設にいられなくなってしまい,高齢の両親が面倒をみることになった。
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