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「ああ……魚にも野菜にも旬はあるよ。本来なら肉にだって旬はあるんだよ。動物は季節によって発情したり妊娠したり,出産も肉質も関係あるから」 「へぇ……そんなこと考えたことなかったです……」  常務は優しく微笑んで,目の前の瓶ビールを手にした。そして嬉しそうに栓抜きでシュッと栓を抜くと,目をつむった。 「ほら……呑みなさい。僕はこの栓を抜く瞬間が大好きでね。子供の頃から瓶のジュースとか,栓を抜くのが楽しかったんだ。さ……呑みなさい」 「あ……すみません。注ぎます。気が付かなくて申し訳ありません……」 「いいから。同じ会社の人間に気を使ってどうする。気を使うなら外で使いなさい」  そう言うと持ったことがないような小さくて薄いグラスに,常務がビールを注いでくれた。 「僕は手酌でいいから,遠慮せずに料理を楽しみなさい」  恐縮しながらグラスを持ち上げ軽く乾杯をすると,次々と料理が運ばれてきた。高級懐石料理といった感じで,手の込んだ料理が綺麗な器に入れられてテーブルの上が豪華になっていった。常務が途中で日本酒を頼んでいたが,見たことも聞いたこともない銘柄でいちいち驚かされた。 『マジで凄い料理だな……。ちょっと写真撮りてぇな……』  目の前のお皿には,白い川の流れに見立てられた塩の上で三匹の稚鮎が泳ぐように並べられ,よく見ると軽く燻製にされたものを焼いているようだった。 「凄いっすね……」
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