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一九九五年四月,松田結衣は,地元の高校を卒業すると大手ゼネコンのグループ会社に総合職として就職した。
大手ゼネコンと言ってもグループ末端の地方都市にある小さな会社で,主に地元の公共工事の下請けを専門とした,パートを含めて従業員三十名程度の会社だった。社員のほとんどが地元の人間だったが,役員は本社からの出向組だった。そのため会社では,どんなに有名大学を卒業していても本社採用でなければ,出世のゴールは常務までと決まっていた。
結衣は主に営業事務を任され,毎日朝から電話の応対で忙しかった。そんな結衣の上司だったのが,課長の小林謙一だった。
謙一は都内の有名大学を卒業後,大手人材派遣会社に就職したのだが,五年目にストレスが原因で体調を崩し,退職して地元に戻ってきた。これまで営業経験しかなかったのだが,都内の有名大学を卒業していることを理由に,新たな職場では現場に出るのではなく社内業務を中心になんでもやらされた。
二人はすぐに交際をはじめ,結衣が入社三年目の冬に籍を入れた。しばらくして双子の男の子にも恵まれ,結衣は育児のために退職し専業主婦として家庭に入った。田舎では寿退社が当たり前で,謙一は子育てがひと段落したら結衣には仕事に復帰して欲しいと願っていた。
そんな息子たちは,一真と翔真と名付けられ,なにをするにも二人一緒だった。
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