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 山上がいなくなって半年が過ぎた。その間に結衣は八回にもおよぶ手術を受け,車椅子で移動ができるまで回復した。まだこれから整形外科による顔の修復が必要だったが,予定では今後十回以上の手術が必要だった。  結衣は激しい記憶障害が残り,とくに宿で襲われたことの記憶はまったくなかった。そのため医師の判断のもと,一真と翔真が殺されたことは伝えられておらず,二人は結衣の治療が終わるまでの間,謙一の両親が面倒をみていることになっていた。  結衣の両親もショックで入院してしまい,頼れるのは謙一と謙一の両親だけだった。  それでも謙一も結衣に会うのが辛く,なにもわからないまま手術を受け,ときおり子供のようなしゃべり方になっている結衣を見ているだけで胸が張り裂けそうになった。  結衣が自分の歪んだ顔を見ることがないように,鏡や反射するものをすべて取り除いた部屋で治療を受けていた。  夜になると情緒不安定になることが多く,寝ていても悲鳴をあげながら飛び起きることがあった。ベッドから飛び起きると子供たちを探してまわり,いないことに気が付くと泣き叫んでドアを叩いた。
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