「辞めれば良かったのに」

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 波瑠は短大を卒業してから、とあるテーマパークで働いていた。幼いころからの夢だったそうだ。しかし、そのテーマパークは所謂ブラック企業という側面もあり、大いに彼女を苦しめるに至った。朝から晩まで作り笑顔で働き詰め。猛暑により体調を崩そうが、客からクレームを付けられようが、仕事のし過ぎで彼氏や家族との関係がこじれようが、それらはすべて自己責任。有給などもってのほか。名指しでクレームを付けられれば即首が飛ぶ。そんな世界だ。それらに加え、社員同士の間でも陰湿な嫌がらせやいじめが横行していた。自分の立場を守るために、社員同士での潰し合いが行われていたのだ。そして、彼女もついにその犠牲者となってしまった。  以前から、電話で「仕事に行くのが辛い」 との相談は受けていた。しかし私の方も決して暇だったわけではなく、大学のレポートと卒業研究のことで頭がいっぱいだった。波瑠の話し方はいたって明るく、そこまで思い詰めているとは想像もしていなかった。私はただ、「そんなに辛いなら早く辞めたほうが良い」「ちゃんとした機関に相談するべき」「お母さんとも話してみれば?」などといった決まり文句を繰り返しただけだった。  そんなことを続けるうち、彼女の方からも相談を持ち掛けることはほとんどなくなり、ある時ふと気になって仕事はどうかと尋ねてみると、「大丈夫。ちゃんと生きてるから」「元気だよ」と一言言うだけで、すぐに話を逸らされるようになった。その言葉が「生きてさえいれば働ける」あるいは「生きているなら働かなければいけない」という意味を持っていたことに気が付いたのは、彼女が生死の間を彷徨った後になってからだった。
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