「辞めれば良かったのに」

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「……ごめん」  彼女はもう一度ぽつりと呟いた。やはり、どこか遠くを見ている。その言葉が私に向けられていないことは明白だった。いったい誰なのだろう。もしくは、何なのだろう。  私は、波瑠に尋ねた。 「そんなになるまでさ、どうして辞めなかったの?」  一瞬、彼女の顔が強張った。 「何? やめる?」  殺される寸前の小動物のように、両目が泳ぎ、声が震えている。この時点で私は嫌な予感がした。だが、続けてしまった。自ら命を絶とうとした波瑠に対し、多少の苛立ちがあったのかもしれない。 「そうだよ。命が一番大事なんだから、生きてさえいればどうとでも――」  この時、自分が不味いことを言ってしまったとわかった。生きてさえいればどうとでもなる? 本当に? 「ただ生きるために、すぐにでも辞めれば良かったの……?」  波瑠の拳にこれでもかというほど力が入る。包帯を巻かれた手首がどうしようもなく痛々しかった。今にも傷口が裂けて血が噴き出すのではないかと、私は内心ひやひやしていた。何かすごく嫌な予感がした。  波瑠は、私とは一切目を合わさず、どこか遠くを見つめたままぽつり、ぽつりと話し始めた。     
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