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やってきた晴人に気付いたレンが、スコップで土を掘り起こしながら、顔だけを晴人の方に向ける。
……これは何の天変地異の前触れだろうか。
晴人が何度誘っても未だに外出を嫌がるレンが、自ら屋敷の外に出て、おまけにガーデニングとは……。
「黒執……お前、熱でもあるのか……?」
思わず隣にしゃがみ込んで、長い前髪の下に掌を滑り込ませる。触れたレンの額は熱いどころかむしろひんやりとしていて、どうやら熱はないらしい。
「熱があったらこんなことしてるワケないだろ、馬鹿」
晴人の手をレンが振り払ったとき、
「そりゃあ、アンタのその姿見たら誰でもそう思うわよ」
晴人とレンの斜め後ろから、突如アリシアの声が飛んできた。
しゃがんだまま晴人が振り向くと、アリシアは何やら苗がいくつも並んだカゴを抱えて此方へ歩いてくるところだった。
「晴人、いらっしゃい。───ほらレン、頼まれてた苗、買ってきたわよ」
アリシアが、レンの傍らに持っていたカゴをドサリと下ろす。
「……ありがと」
呟くような声音で礼を言うレンの髪をぐしゃぐしゃと掻き混ぜて、アリシアは満足そうに笑う。
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