ベジタリアン・ヴァンパイア

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 それまでしっかり晴人の顔を見据えていた谷川の目が、突然焦点を失ったように虚ろになって、晴人は思わずゾクリと背を震わせた。 「……先生?」  明らかに様子のおかしい谷川に、晴人は恐る恐る声を掛ける。  谷川は、相変わらず何処を見ているのかわからない虚ろな視線のまま、静かに口を開いた。 「……黒執のことなら……問題ない。何も、問題ないんだ。アイツは、大丈夫だから……」  譫言のように答えるその声は確かに谷川のもので、実際目の前で晴人も見ているのに、まるでその返答を誰かに言わされているようだった。ついさっき、自分に向けて「お疲れ」と笑ってくれた相手と同一人物だとは思えない。  見慣れているはずの担任に得体の知れない恐怖を感じて、無意識に喉を鳴らした晴人の前で、谷川は何度も「黒執なら、問題ない」と空虚な目で繰り返している。 (……どうなってんだよ、何だコレ……!?)  今の谷川は、日頃見ている彼ではない。  おまけに、「黒執なら問題ない」というのは、一体どういう意味なのだろう。学校に来なくても問題ない、ということなのだろうか。  特待生だとか、そういうものは晴人はよく知らないが、全く学校に来なくても問題ない、なんてことがあるんだろうか。  それに何より、いきなり豹変してしまった谷川の様子に、思考が追い付かない。     
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