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「……先生! 谷川先生!!」
廊下に響き渡るほどの声で、晴人は必死に呼び掛ける。
すると谷川はそこで漸くハッとしたように晴人の方を見た。その顔は、いつも見ている谷川の顔に戻っている。
「あれ……俺、今何か言ってたか……?」
怪訝そうに首を捻る谷川に、晴人は「いや、何も……」と何とか平静を装って首を振ったが、内心では酷く混乱していた。
谷川は、つい一時前の自身の発言を覚えていないらしい。だとしたら、やはりさっきのレンに関する答えは、谷川の意思で発せられたものではないのだ。
(じゃあ誰が……)
そう考えて、ふと入学式の日に見た小綺麗な横顔が脳裏に浮かんだ。
あの日からずっと登校していない、黒執レン。
谷川の様子が急変したのは、彼の不登校理由を聞いた直後だった。
まさか、彼が谷川に都合の良い答えを言わせているのか? ……いや、そもそもそんなことが出来るのだろうか。
仮にレンが裏で谷川を言いくるめているのだとしても、突然谷川が何かに取り憑かれたようになったことは説明がつかない。
……わからない。何もかも。
─── 一向に姿を見せない本人に、直接聞かないことには。
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