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意を決して顔を上げた晴人は、まだ狐に抓まれたような顔をしている谷川にズイ、と詰め寄った。
「先生。今日の現国で中間に出るって配られたプリント、黒執の分も預かってるんで、住所教えてください」
「……この辺に、こんなデカイ洋館なんかあったのか……?」
咄嗟に浮かんだ嘘で、強引に谷川から聞き出した住所を頼りに辿り着いた場所に建っていたのは、思わず圧倒されるような立派な洋館だった。
グレーの煉瓦タイルの外壁は所々蔦で覆われていて、夜の所為もあってか晴人の目には少し不気味に映った。手入れされた庭の植え込みの先に見える噴水が、辛うじて薄気味悪さを和らげてくれている。
周辺に広がる住宅地の中では、明らかに異質な家だ。地域ではそれなりに噂になっていても良さそうだが、その洋館は外観とは裏腹に、まるで夜の闇に紛れるようにひっそりと佇んでいた。
何だか、洋画にでも出てきそうな豪邸だ。
ゴクリ、と一度喉を鳴らしてから、立派な錬鉄門の脇にある呼び鈴を押してみる。しかし、何の応答もない。
二度、三度と押してみたが、相変わらず応答も無ければ、屋敷の中から誰かが出てくる気配もなかった。
玄関脇の電灯にはポツリと明かりが灯ってはいるが、ここから見える窓にはどこにも明かりは見えない。
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