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「……まさか、学校休んで夜遊びじゃないだろうな」
小さく舌打ちして四度目の呼び鈴を鳴らそうと手を伸ばした、そのときだった。
「ウチに何か用かしら?」
口調に反して随分と低い声が背後から飛んできて、特別疚しいこともないのに、晴人は反射的にビクッと肩を竦ませた。
恐る恐る振り返った先で、スラリと背の高い細身の人物が、長いストレートの黒髪を靡かせて晴人を見つめている。
漆黒のトレンチコートに、黒いパンツ。足元は、黒いピンヒール。全身に闇を纏ったようなその人物は、顔に掛かる髪を煩わしそうに払ってから、晴人に歩み寄ってきた。
「ボク、お口がきけないの?」
長身な上にヒールのお陰で、決して小柄ではない晴人より更に高い位置から、相手が揶揄うような笑みを口許に浮かべて見下ろしてくる。その顔にはバッチリとメイクも施されていて、黙っていれば海外モデルのような美女に見えるが、目の前の相手の声はどう聞いても『男』のものだ。
(お、男……だよな……?)
歳もまだ二十代くらいにしか見えないので、レンの親にしては若すぎるし、兄だとしてもレンとはあまり似ていない気がする。
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