1036人が本棚に入れています
本棚に追加
「レンは、血が大嫌いなの。吸血鬼にとって血液は最も重要な栄養源だから、これまで色んな人間の血を無理矢理飲ませてみたけど、どれも駄目だったわ。そもそも吸血鬼は本能で血を求めるものなのに、レンの好みときたら、イチゴにスイカにトマトなのよ? 笑っちゃうでしょ。そんなもので体力が維持出来るわけがないから、こうしてせめて週に一度でも血液の多いものを食べさせるようにしてるんだけど、この通り嫌がるんだから、とんだ問題児よ」
アリシアに押し付けられたタッパーの中の心臓を、レンはこれ以上ない渋い顔でほんの一口齧ったかと思うと、すぐにデスクの端へとタッパーを置いてしまった。
さっき、レンの好き嫌いがどうこうと言っていたのはそういうことかと、そこでやっと合点がいった。だからこれほど大量の鉄分サプリが必要なのだということも。
……ということは、アリシアはレンに晴人の血を飲ませようとしていたのか、ということにも気が付いて、さすがにそれには微かな悪寒がした。
百歩譲って二人が本当に吸血鬼なんだとしても、蚊に血を吸われるのとは訳が違う。
血を吸われても吸血鬼になることはないとアリシアは言ったが、それなら吸われた人間は、一体どうなるのだろう。
「……アリシアは、人間の血を吸ってるんだよな?」
オネエではあるが、何だかんだで面倒見の良い人なのかと思っていただけに、複雑な気持ちで問い掛ける。そんな晴人の心中を察してか、アリシアは目を伏せて微かに笑いながら「そうよ」と肩を竦めて見せた。
「血を吸われた人間は、どうなるんだ。その……口封じに殺すとか……」
最初のコメントを投稿しよう!