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「ヤダ、そんな物騒なことしないわよ。人間同士だって、偶然出会った相手と一晩の夢を見ることだってあるでしょ? ……って、アナタにはまだ少し早い話だったかしら。勿論、殺そうと思えば容易いけど、そんなことはしないわ。ワタシは誰かさんと違って社交性のある吸血鬼だもの。ほんの一晩、甘い蜜を貰うだけ」
アリシアが妖艶な笑みを浮かべて、晴人の日に焼けた首筋をツツ…と指先で辿る。
「何なら試してみる?」
冗談めかして小首を傾げるアリシアを、レンが「おい」と椅子から立ち上がって制した。
レンに直接会って、不登校の理由を本人の口から聞き出すだけのはずが、とんでもなく想定外の話を聞いてしまった。
頭の整理が追い付かず、返答出来ずにいる晴人に「冗談よ」と笑って、アリシアは手を引っ込めた。いっそ吸血鬼だという話も冗談だと言って欲しかったが、そこは否定されなかった。
「人間相手に話し過ぎだ、アラン。とにかく俺は、こんな太陽臭いヤツの血を飲む気なんてない」
(太陽臭い……?)
レンの言葉に、晴人は思わず眉を寄せる。
部活の後なので、汗臭いとか泥臭いと言われるならまだしも、「太陽臭い」なんて言われたのは初めてだ。そもそもそれは、どんな匂いなんだろうか。
吸血されたいなんて気持ちは全くなかったが、かといってここまで露骨に否定されると、晴人としても複雑な気持ちだった。
晴人には血の旨みなんてわからないが、飲んでもないのに否定されるのはどうなんだと思ってしまう。
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