1036人が本棚に入れています
本棚に追加
「ワタシたち吸血鬼に口封じが必要ないことを、アナタの身体で証明してあげる。───今日ここで見たことや聞いたことは、全て忘れなさい。アナタは今日、黒執の家には来ていない。黒執レンのことには、一切関心がない。学校を出た後、アナタは普段通り真っ直ぐ自宅に帰った。いいわね?」
そう言われた途端、頭の中に突然靄がかかったようになり、何も考えられなくなった。
自分が今居る場所が何処なのか。自分はここで何をしているのか。よくわからなくなってくる。
「……家に……帰る……」
無意識にそう呟いて、晴人は自分が数刻前の谷川と全く同じ表情をしている自覚がないまま、ゆっくりと踵を返した。
「……アナタならレンを変えてくれそうだと思ったけど、残念だわ」
背中で聞いた呟きが最早誰のものかもわからないまま、晴人はフラフラとした足取りで屋敷を出る。
まるで何かに操られるように歩いて、歩いて、そうしてふと気が付くと、自宅の前に立っていた。
「………?」
見慣れた自宅の前で奇妙な違和感を覚えて、晴人は首を捻った。
学校を出てから、自宅に帰り着くまでの記憶がない。
何か大事なことを忘れている気がするが、思い出そうとしてもまるで記憶に霧がかかったようで思い出せない。
自分は帰宅中の記憶もないほど、呆けていたんだろうか。そう言えば放課後、大和からもボーっとしていると言われたが、あのときは一体何を考えていたんだったか。
最初のコメントを投稿しよう!