1036人が本棚に入れています
本棚に追加
自宅に入ってそれから眠りに就くまで、晴人は延々と考え続けたが、頭の中を覆う霧は濃くなる一方で、結局大事な何かを思い出すことは出来なかった。
◆◆◆◆◆
五月に入り、GWも終わった一年A組では、席替えが行われた。
入学式の翌日からこれまでずっと空席のままだったレンの席は、誰が言うでもなく自然と窓際の一番後ろに配置され、晴人の席は廊下側の一番前になった。
未だに一度も登校してこないレンを、クラスメイトはいつしかもう噂にもしなくなっていた。
入学式の直後はその登校を心待ちにしていた女子たちも、今ではレンのことを口にすることはない。
そしてそれは、晴人も同様だった。
これまでずっと目の前にポツンとあった空席。
そこに本来座っているはずの人物が、入学式で倒れたことは覚えているのだが、その名前はもう思い出すことが出来なくなっていた。
「ずっと不登校のヤツが窓際の特等席って、何か狡ぃよなー」
昼休み。
隣の席から勝手に椅子を拝借してきて晴人の机でサンドイッチを齧りながら、大和が不満げに零した言葉に、晴人は「何のことだよ」と首を捻った。
その反応に、大和がサンドイッチを口に運ぶ手を止めて驚いた顔になる。
「何って……お前が前に言ってた、黒ナントカってヤツのことじゃん。先月から全然学校来てねーヤツ」
「黒ナントカ……?」
最初のコメントを投稿しよう!