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相変わらず首を傾げたままの晴人に、大和は「おいおい」と呆れた声を上げる。
「何だよお前、ちょっと前までそいつのフルネーム覚えてたクセに、GWボケかよ?」
「フルネーム……? そんなの、俺覚えてたか?」
「覚えてたし、何で休んでんのかとか、可愛い女子そっちのけで気にしてただろ」
大和に言われて、チラリと窓際の後方へ視線を向ける。
今日席替えをするまで、ずっと晴人の前にあった、空っぽの机。
その内登校してくるだろうと思っていた生徒は結局入学式以降、今日まで一度も来ることはなく、彼が何という名前でどんな生徒だったのか、思い出そうとしてもぼんやりとした面影しか一向に浮かんでこない。
いつしか、晴人の目の前の席が空席であることはこのクラスの日常になっていて、その日常の中に、晴人も居たのではなかっただろうか。
「……大和の方こそ、夢でも見たんじゃないのか? そもそも俺は、そいつの名前も覚えてない」
晴人の席とは対角線上にある空席を眺めたまま答えた瞬間、チリ…と微かに胸の奧が痛んだ気がして、晴人はまた首を捻る。
……何だろう。
これまで特別気に留めていなかったはずのあの空席を見ていると、何かを忘れているようなもどかしさが込み上げてくる。
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