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「何だよ、お前もしかして加藤さんじゃなくて黒……なんだっけ? あの黒ナントカってヤツが気になってンの? 女子に対して冷めてんのって、もしかしてそーゆーコト?」
揶揄う大和の声を、晴人は「そんなんじゃない」と一蹴出来なかった。
大和は、黒執の名前すらまともに覚えていない。たった一日しか顔を見ていないのだから、考えてみれば別におかしなことでもない。
レンの第一印象はそれはもう強烈だったが、さすがにそれからひと月近く顔を見せていないとなれば、その印象が薄れていくのも無理はない。クラスメイトたちも、死亡説や幽霊説などを面白おかしく話している時点で、レンの存在自体がある種の都市伝説のようなものになってしまっているのかも知れない。
その証拠に、今となってはクラスの誰も、担任にレンの欠席理由などを尋ねたりはしなくなっていた。
それなのに、晴人だけはレンのことが妙に気になって仕方がないのだ。自分と周囲とのこの温度差は、一体何なのだろう。
胸の中がモヤモヤして、その理由がわからずに苛々する。
───部活が終わったら、職員室に寄ろう。
担任に直接レンの欠席理由を聞けば、少しはスッキリするかも知れない。そう決意した晴人は、大和の「……まさかのガチ?」という問い掛けには気付かなかったフリをして、部室のドアを開けた。
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